わたしの足はギリシャ型

あうくつがない

UFOよりも好きなのよ

 


音楽が好きだと自覚するようになって人生の半分は過ぎた。私が好きなバンドは90年代に活躍していたバンドばかりで、ほとんどが解散してその活動のピークの時を肌では知らない。

彼らのパーソナルな情報はもっぱら古本屋で探していた。

2010年代に入ってバンドの再結成ブームが起きた。いくら音楽が不況と言われても、音楽を聴かない人はそんなに減ってないみたいで、次々と復活したのは、割と嬉しいようで、虚しかった。あれだけ10代の私が望んだバンドのステージが割と簡単に見られる事は嬉しい反面、わがままは承知だけど、あっけなさすぎてありがたみが薄れた気がした。

好きなバンドは現存しない事が当たり前だった自分にとって、彼らの活動を目の当たりにするのは、なかなか気持ちが追いつかないことだった。そして、再録のベスト盤が増えていくCDラックを見て「そうじゃないんだよなぁ」となんとなく思ってた。私が聞きたいのは新曲で、"全世界初O.A"というワードだ。おなじみのあの名曲ではできない。ラジオの前で待機して、新曲を聴いてあーだこーだとはしゃいでみたかった。

 


だが、それがいかにわがままか、痛感しても足りないくらい悲しい事があった。

好きなバンドの一つ、すかんちのキーボード、ドクター田中さんが先週57才で亡くなってしまった。寂しいというよりまだ信じられなくてここ最近はすかんちばかり聞いている。

 


私がすかんちにハマったのは割と最近で、復活した後の数回目のツアーですら行けなかった。私がドクターさんを見たのは、たったの1回。数年前の小川文明さんの追悼イベントでだ。

その時は怪我をした後遺症でしばらくバンドに参加できなかったベースのShima-chang が久しぶりに参加する事が告知されていて、車椅子で登場したShima-chang を見てめちゃくちゃグッときたし、イベントも亡くなった小川文明さんゆかりの人たちが集まった前向きなイベントで、すかんちもきっとこれからも度々集まってライブをしてくれるんだろうな、と思わせる時間だった。

その時のドクターさんは人前に出るのが久しぶりだったみたく、近況を他のメンバーに聞かれていて、それを聴いて私は呑気に「ドクターさんもSNSとかしてくれないかなぁ」と思っていた。

それがもう5年も前なのだ。え、本当に? マジで? 結局ドクターさんはSNSをやらず、すかんちは1度復活した(ような気がする、2度かも)のみで、今度はドクターさんが文明さんの元へ行ってしまった。信じられない、未だに。

 


すかんちはバンド活動当時の奇抜なルックスからコミカルなバンドかと誤解されることもあると思うけど、もちろんグラムロックだからコミカルな部分も様式美としてあるけれど!

すかんちはとてもオシャレなサウンドに技術が上乗せされたきちんとカッコいいバンドだ。

ドクターさんが参加しているのは、4枚目のアルバム「OPERA」までだけど、そのサウンドは「本当に93年?お洒落すぎない?」と何度も発売年度を確認したし、1枚目のアルバム「恋のウルトラ大作戦」でのROLLYShima-chang 、ドクター田中による緻密なコーラスワークはほかのバンドでは体験できない気持ちよさがある。

バンドの半分がメインボーカルを張れるバンドってこんなにカッコいいのか、とデビュー曲の「恋のTKO」から知らしめてきてクラクラした。一曲の中で声質やキャラクターによってメンバーが歌いわけて、歌詞に深みが出るし、飽きなくて結局何回も聞いてしまう。

その中でもドクターさんは「恋人はアンドロイド」というどうしようもない名曲でメインボーカルをとり、持ち前のハイトーンボイスを惜しみもなく披露し、私がすかんちの中でもトップクラスに好きなスペースオペラ「好き好きダーリン」ではちょっとホラーなダーリン役をやっている。何回聞いてもカッコよくて楽しいこれらの曲を聞いても今まではライブにいつか行きたいなだったのにこれからはライブに行きたかったな、になるかと思うと体のどこかが締め付けられる感じがして、心のどこかが無くなった気がして悲しい。

私がすかんちと共に過ごしてた時間なんて微々たるものだけど、これから先もきっと好きだし、ずっと聞いていると思う。

 


だから、私ができる追悼はすかんちを聞くひとを増やす事だと勝手に思って、YouTubeででもサブスクででもこの記事を見た人は聞いてほしい。だって、聞く人が増えたらきっとずっとサブスクにも残るだろうし、CDも売れるだろう。そしたらきっとまたライブに行ける日が来るんじゃないかなと思う。

最後にドクターさんが天国で幸せに暮らせてますように。