わたしの足はギリシャ型

あうくつがない

愛すべきバカ王子

グラムロック界のスター、マークボランのことを吉井和哉は「愛すべきバカ王子」と形容した。当時10代の子供だった私は動くマークボランを見たことはないが、その文章を読んでから、私にとって王子様といえばマークボランのようなルックスの人になった。


数年前、ギタリストで歌手のローリー寺西ことROLLYにめちゃくちゃハマり、遠征までしてライブに行っていた経験がある。

今でももちろん大好きだし、たまに聞いているけど、あの頃は本当に恋をしたレベルで好きだった。歌もギターもうまいからというだけでなく一挙一動がかっこよくて発言も全部チェックした。

けれど私が好きなのは現在の真面目で誠実なロック仙人のようなROLLYではなく、お昼のバラエティで問題発言を繰り返しつつもシャイな一面をチラッと見せ、ファンのために王子を演じていたであろうローリー寺西時代のROLLYだったんだなと気付いてしまった。私が知った頃には既にロック仙人だったが、知れば知るほどローリー寺西はまさに"わたしのかんがえるさいきょうの王子様" だった。

その事に気づいた時、今のROLLYも好きなのに追えば追うほどきっと自分の中で本人との解釈違いが起きて悲しくなってしまうんだろうなと思い、追うのをやめた。追うのをやめただけで好きなのには変わらないけれど。


よくわからないけど、最近は若い頃好きだったバンドマン達が大人になり(性格が) 丸くなったり、伝えてくるメッセージが変わってきたりする事に耐えられなくなってきた。あんなに再結成を心待ちにしていたイエローモンキーでさえアルバムの曲名を見て「イエモンが恋を歌うなんて…」と衝撃を受けたり、筋肉少女帯の歌詞が穏やかになり、恋愛や人生を讃える歌詞が増えて悲しくなったりしている。曲はとても好きだし、本人達も何も悪くない。なのに聞くと悲しくなるのだ。


私は10代の暮れからうつで20代の後半は本当にしんどくてほぼ寝て過ごしていた。どうせもうすぐ死ぬんだとそう思い込んでいた。

マークボランは30まで生きられないと話して本当に30歳直前に死んでしまったけど、私は死なず30歳をとうに超えてしまった。

その間に好きなバンドは再結成したり新曲を増やしたり、メンバーが亡くなったりと色々あった。私だけ10代のまま取り残されたのだ。


学校にどうしても足が向かない日、学校の前を素通りして隠れた近くの地下道で聞いていたイエローモンキーも、筋少も、大人になって色々病んで入らなきゃいけなくなった精神病棟で聞いたすかんちも、今は今のビートを刻んで大人の音楽をしている。10代の子にもウケたい、昔からのファンにもウケたい、と思っているんだろうし、聞いていてそうなんだろうと思うのに、私はついていけない。


なんでこんな事になったんだろうと悲しんでいた時に、見た目が完璧に王子様な人に出会ってしまった。今の恋人だ。(結局ノロケかよ)

彼は天パ所以のカーリーヘアで、ちょうど髪を伸ばしてる最中だった。体型も俗に言うロッカー体重(身長−120) で細身。音楽には大して興味はないみたいだが、ベルボトムが似合いそうな足をしているし、多分似合う。性格はピュアでたまにどうしようもないわがままを言う。

ある待ち合わせの日、雨が降ってるから外に出たくないという電話を受けて、呆れながらも笑ってしまった。(結局待ち合わせ場所を変えた) まぁ、王子様だし仕方ないよなぁと許せてしまうのはグラムロックの洗礼を10代の時に受けたからなんだろう。

30過ぎて子供みたいな恋愛観で、子供みたいな恋愛をしているけれど、彼は30まで生きられないと思っていた私に突然現れた王子様。

私は彼に推し変した。